クリティカルパス法と遅延リカバリ(クラッシング・並行化)
プロジェクトの進捗が予定より遅延した際、PMが真っ先に行うべきことは何でしょうか。「遅れている作業に人員を増員する」「残業でカバーさせる」といった直感的な対応は、しばしば事態をさらに悪化させます(ブルックスの法則)。
進捗遅延のリカバリにおいて唯一無二の羅針盤となるのが、「クリティカルパス法(CPM:Critical Path Method)」です。高度記述式試験では、ネットワーク工程表からクリティカルパスを正確に特定させ、最早・最遅結合点時刻やトータルフロートを計算させた上で、最小コスト・最小リスクで工期短縮を図るリカバリ戦略が毎年のように問われます。
1. クリティカルパスとフロート(余裕日数)の数学的基礎
ネットワーク工程表(アローダイアグラムやプレシデンスダイアグラム)における重要用語を整理します。
用語 | 英名/略称 | 定義と計算ルール |
|---|---|---|
最早結合点時刻 | Earliest Time (ET) | 先行作業がすべて完了し、その結合点から後続作業を開始できる最も早い時刻。前進計算(順方向)で最大値をとる。 |
最遅結合点時刻 | Latest Time (LT) | 全体の完了期日を守るために、その結合点までに先行作業を完了していなければならない最も遅い時刻。後退計算(逆方向)で最小値をとる。 |
トータルフロート | Total Float (TF) | プロジェクト全体の納期を遅らせることなく、その作業が遅延できる最大日数。TF = 後続ノードのLT - 先行ノードのET - 作業所要日数。 |
クリティカルパス | Critical Path (CP) | 最早結合点時刻と最遅結合点時刻が一致するノード(TF = 0)を結んだ、プロジェクト開始から完了までの最長経路。 |
【鉄則】:クリティカルパス上にない作業(フロートに余裕がある作業)を何日短縮しても、プロジェクト全体の納期は1日も短縮されません。遅延リカバリの対象は「常にクリティカルパス上の作業のみ」です。
2. スケジュール短縮の2大技法:クラッシング vs ファストトラッキング
技法名 | 具体的な手段 | メリット | 発生するデメリット・リスク |
|---|---|---|---|
クラッシング (Crashing) | 追加要員の投入、残業・休日出勤、高性能ツールの導入 | 作業の論理順序を変えずに期間を短縮できる | 【追加コスト発生】要員追加による教育・引継ぎコスト、生産性低下 |
ファストトラッキング (Fast Tracking) | 本来は直列(シーケンシャル)に行うべき作業を、並行(パラレル)して進める | 追加コストをほとんどかけずに期間短縮できる | 【手戻り(リワーク)リスク】先行工程の仕様未確定による再作業が多発する |
3. 【実戦記述演習 問1】工程表の読解とリカバリ対象作業の選定
【シナリオ背景】金融機関E社向けの決済ゲートウェイ刷新プロジェクトにおいて、結合テスト工程が進行中である。現在、第12週が終了した時点の工程状況は以下の通りである。
結合テスト工程のタスク状況:
・タスクA【決済電文テスト】:所要予定10日、実績12日(2日遅延で完了)
・タスクB【管理画面テスト】:所要予定8日、実績8日(予定通り完了)
・タスクC【外部API連携テスト】:所要予定15日(現在着手、予定遅延なし)
・タスクD【夜間バッチテスト】:所要予定12日(現在着手、予定遅延なし)
・タスクE【総合性能負荷テスト】:タスクC完了後に開始(所要予定10日)
・タスクF【障害時系切替テスト】:タスクCおよびタスクD完了後に開始(所要予定8日)
・タスクG【移行リハーサル】:タスクEおよびタスクF完了後に開始(所要予定5日)
※依存関係:
・開始 → タスクC(15日) → タスクE(10日) ────┐
・開始 → タスクC(15日) ──┐ │
・開始 → タスクD(12日) ──┴→ タスクF(8日) ─┴→ タスクG(5日) → 完了先行するタスクAの遅延により、結合テスト全体の開始が予定より2日遅れてスタートした。本番移行リハーサル(タスクG)の開始日は固定されており、プロジェクト全体の完了日を厳守するためには、残る作業の中で2日間の工期短縮が必要である。
設問1:2日間の遅延を最小のコストとリスクで挽回するために、短縮の対象とすべきタスクの名称を挙げ、そのタスクを選定すべき理由をパスの長さの観点から35字以内で述べよ。
【模範解答】
タスクCまたはE。最長経路(C-E-G:計30日)上にあるため。(34字)解説と採点基準(配点:10点)
出題意図:ネットワーク図から各経路の長さを計算し、クリティカルパス(開始→C→E→G=15+10+5=30日)を正しく特定できるかを問う。
他の経路の長さ:開始→D→F→G(12+8+5=25日)、開始→C→F→G(15+8+5=28日)。したがってクリティカルパスはC-E-Gである。
加点キーワード:『タスクC(またはタスクE)』『最長経路(クリティカルパス)上にあるため』(各5点)。
減点対象:タスクDやFを短縮対象とする答案は、クリティカルパス外のため0点。
4. 【実戦記述演習 問2】ファストトラッキング採用時の品質リスクと対策
【シナリオ追加背景】PMは追加予算をかけずに2日短縮するため、タスクC(外部API連携テスト)の終了を待たずに、タスクCが80%進捗した段階でタスクE(総合性能負荷テスト)を並行して開始する「ファストトラッキング」の採用を検討した。
設問2:このファストトラッキングを実施した場合に懸念される品質面・工程面のリスクと、そのリスクを軽減するためにPMが講ずべき事前の確認事項を40字以内で述べよ。
【模範解答】
API不具合に伴う再テストリスクに対し、負荷対象機能の仕様確定度を確認する。(38字)解説と採点基準(配点:10点)
出題意図:ファストトラッキング固有の弊害である「手戻り(リワーク)リスク」と、先行タスクの部分的完了度(テスト合格度・安定度)の事前検証を評価する。
加点キーワード:『手戻り(再テスト/不具合多発)リスク』(4点)、『仕様確定(安定稼働/先行機能合格)の確認』(4点)、『対象機能の切り分け』(2点)。
減点対象:「人員を2倍に増やす」(設問の意図であるファストトラッキングのリスク対策になっていないため減点)。
5. まとめ:工程管理の黄金ルール
□ 遅延が発生した際、その作業がクリティカルパス上にあるかを即座に検証しているか?
□ クリティカルパス以外の作業を短縮して、無駄な追加コストを浪費していないか?
□ クラッシングを行う場合、追加要員の受け入れ・教育に伴う一時的な生産性低下(ブルックスの法則)を織り込んでいるか?
□ ファストトラッキングを行う場合、仕様変更による手戻り工数が短縮日数を上回らないか評価しているか?
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編集・検証:IT資格ラボ編集部
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