バックアップ運用の設計とRPO・RTOの復旧計算
復旧目標を決めるでは、RPOとRTOから、必要なバックアップと復旧手順を考えます。用語を覚えるだけでなく、事例の条件に合う対策を選べるように整理しましょう。
科目Aで基本的な意味を確認し、科目Bでは「守る情報・起きた事象・組織のルール・担当者の権限」を読み取ります。本文の確認問題は、考え方を練習するためのオリジナル問題です。
RPOとRTOから、必要なバックアップと復旧手順を考えます。比較表と事例問題で確認した後は、正解以外の選択肢が条件に合わない理由も説明してみてください。
1. バックアップ方式の3大分類と決定的な違い
バックアップには、バックアップ時の負荷と、障害復旧(リストア)時の手間のトレードオフが存在します。
バックアップ方式 | バックアップ対象 | 取得時の所要時間・データ容量 | リストア時の手順と所要時間 | 管理の複雑さ |
|---|---|---|---|---|
フルバックアップ(完全) | 全ての対象データを丸ごとバックアップ | 大(時間が最もかかる) | 小(該当のフルバックアップ1回分を戻すだけ) | 極めて単純 |
増分バックアップ(Incremental) | 前回のバックアップ(フルまたは増分)から「変更・追加されたデータ」のみ | 小(日々の所要時間が最短) | 大(直近のフル + それ以降の全増分を順番に適用) | テープやファイルが1つでも欠けるとその時点への復元ができない |
差分バックアップ(Differential) | 直近のフルバックアップから「変更・追加されたデータ」のみ | 中(週末に近づくほど容量増) | 中(直近のフル + 障害直前の最新差分の計2回) | 比較的容易 |
2. RPO(目標復旧時点)とRTO(目標復旧時間)の本質
事業影響度分析(BIA)によって決定されるBCPの2大指標です。アルファベットの意味を正確に区別してください。
RPOは、どの時点のデータまで戻れるようにするかという目標。許容するデータ損失の時間幅を決める。
RTOは、業務をどれだけの時間で再開するかという目標。復元だけでなく、構成の戻し、確認、利用再開までの時間を含める。
目標を決めるだけでは復旧を保証できない。取得・保管・復元の手順を整え、実際に試験する。
3. 【実戦攻略】バックアップ計算の鉄則ステップ
バックアップの計算では、復旧したい時点と必要なバックアップの組合せを時系列で確認します。
【計算例】:
・スケジュール:
- 毎週土曜 02:00:フルバックアップ(所要リストア時間:4.0時間)
- 毎週火曜・木曜 02:00:増分バックアップ(1回のリストア時間:0.25時間)
・RPO:72時間、RTO:120時間
・障害発生日時:木曜 正午(12:00)
【ステップ1:障害発生時点で取得済みの最新バックアップを特定】
木曜正午の時点で完了している直近バックアップは「木曜 02:00の増分」。
したがって、直近復元可能時点は「木曜 02:00」。
【ステップ2:リストアに必要なバックアップデータの特定】
増分バックアップからの復元には以下がすべて必要:
① 直近のフル(土曜 02:00)
② 火曜 02:00 の増分
③ 木曜 02:00 の増分
【ステップ3:総所要時間の加算】
4.0時間(フル) + 0.25時間(火曜増分) + 0.25時間(木曜増分) = 4.50時間4. 科目B形式オリジナル実戦シナリオ演習
演習1:金曜障害時のRPO判定とリストア時間計算
〔背景・企業概要〕電子機器メーカーA社では、ファイルサーバのデータを磁気テープにバックアップしている。・毎週土曜日の午前2時からフルバックアップを取得する。・毎週火曜日と木曜日の午前2時から増分バックアップを取得する。・フルバックアップからのリストアには4時間、増分バックアップ1回分からのリストアには0.25時間かかる。・ファイルサーバの要求事項として、RPOは72時間、RTOは120時間が定められている。各バックアップは当日2時の整合したデータを取得し、正常に完了している。別途のトランザクションログはなく、ここでは復元に要する時間だけを計算する。
〔設問〕金曜日の正午にファイルサーバのストレージが全壊した場合、RPOの要求事項を満たすために「少なくとも復元しなければならない時点のデータ」と、直前木曜日までのバックアップを用いて全データを復元する場合の「予想リストア時間」の組合せとして、最も適切なものはどれか。
選択肢 | RPOを満たすために復元すべき時点 | 予想リストア所要時間 |
|---|---|---|
ア | 火曜日の正午 | 4.25時間 |
イ | 火曜日の正午 | 4.50時間 |
ウ | 水曜日の正午 | 4.25時間 |
エ | 水曜日の正午 | 4.50時間 |
【正解】:イ
【正解の理由】:
1. RPOは72時間であるため、金曜正午(12:00)から72時間(ちょうど3日前=24時間×3)を遡ると「火曜日の正午」になります。したがって、少なくとも火曜日正午以降の時点のデータを復元できなければなりません。
2. 金曜正午までに取得済みのバックアップは、土曜日のフル(4時間)、火曜日の増分(0.25時間)、木曜日の増分(0.25時間)です。これら3つを順番にリストアするため、4.0 + 0.25 + 0.25 = 4.50時間となります。
演習2:ランサムウェア対策とバックアップ媒体の保管管理
〔背景・企業概要〕旅行代理店B社では、顧客予約管理サーバのバックアップを社内ネットワーク経由でNAS(ネットワーク接続ストレージ)に日次自動保存していた。
〔事象〕社内PCがランサムウェアに感染し、ネットワークドライブとしてマウントされていたバックアップ用NAS内のデータもすべて暗号化されてしまい、復元が不可能となった。
〔設問〕B社のセキュリティリーダーが再発防止策として提案すべき、最も安全なバックアップ運用方針はどれか。
ア:NASのストレージ容量を2倍に増強し、バックアップの取得頻度を日次から毎時(1時間ごと)に変更する。
イ:バックアップ用データを磁気テープや書き換え不能ストレージ(WORM/イミュータブルバックアップ)に退避し、ネットワークから物理的に切り離したオフライン状態(耐火金庫等)で遠隔世代管理する。
ウ:ランサムウェア感染時に備えて、身代金の支払いに必要な暗号資産(ビットコイン)をあらかじめ会社の経理資金として購入しておく。
エ:全社員のPCの電源を常にオンにしておくことを義務付け、夜間バックアップの失敗を防ぐ。
【正解】:イ
根拠:感染端末から書き換え・削除されにくいバックアップを確保し、復元を試験します。オフライン保管とイミュータブル保管は異なる手段です。身代金を支払っても復号や漏えいデータの削除は保証されず、組織の方針と専門機関への相談に従って対応します。
確認する点:常時接続された書換え可能なバックアップだけに頼ると、同時に被害を受けるおそれがあります。
5. まとめと重要チェックリスト
増分バックアップのリストア:フル + すべての増分を順番に足し算する。
差分バックアップのリストア:フル + 最後の差分1回のみを足し算する。
RPO(時点):過去どこまで巻き戻せるか。RTO(時間):何時間で立ち上がるか。
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