無線LAN・WPA2/WPA3とEvil Twin
社員アリスのWS-41が企業SSID CorpNetへ接続します。正規APに似せたEvil Twinも同じSSIDを広告しているとき、WPA2/WPA3、PSK/Enterprise、802.1X、EAP-TLSのどの検証が接続先を決めるのでしょうか。接続ログとRADIUS認証の境界を一つの事案で読みます。
読む順序は、用語と配置→正常な処理→異常ログ→調査と対策→復旧→演習です。接続・検知・遮断・被害を別々の事実として扱います。以下の構成、時刻、アドレス、ログ、設定値は教材用の架空例です。
1. 用語と役割を構成に結び付ける
用語 | この事例での意味と限界 |
|---|---|
無線LAN/SSID/BSSID | SSIDはネットワーク名、BSSIDはAPの無線インターフェース識別子。どちらも見た目だけで正規APの証明にはならない。 |
WPA2-Personal/PSK | 共有パスフレーズを使う方式。全員で同じ秘密を持つと個人ごとの失効が難しい。弱いパスフレーズは盗聴したハンドシェイクから推測され得る。 |
WPA3-Personal/SAE | パスワード認証付き鍵交換SAEを使う。WPA2-PSKよりオフライン辞書攻撃への耐性を高めるが、弱いパスワードや偽サイト誘導を無害にしない。 |
Enterprise/802.1X | 端末supplicant、AP/authenticator、認証サーバ(多くはRADIUS)の三者でEAP認証を行う。WPA2/WPA3のEnterpriseで使う。 |
EAP-TLS | 端末と認証サーバが証明書を用いて相互に認証するEAP方式。端末はサーバ証明書の信頼先と名前を検証する。 |
不正AP/Evil Twin | 許可されないAP、または正規SSIDを模倣するAP。無線信号・SSIDだけで信頼せず、認証方式とサーバ検証を確認する。 |
PMF | Protected Management Frames。一部の管理フレームを保護する。未認証のビーコンなど全ての無線フレームを保護するわけではない。 |
2. 構成と信頼境界
CorpNetはWPA3-Enterpriseの802.1X/EAP-TLSを使います。WS-41には企業CAと端末証明書を配り、正規AP AP-1は認証要求をRADIUS-1へ転送します。不正AP AP-Xは同じCorpNetを広告します。ゲスト用GuestNetは別SSID・別VLANで、内部APP-1へ直接接続させません。
APは認証を仲介し、端末はRADIUS側の証明書を検証する。
図のWS-41とRADIUS-1の矢印はAPがEAPを運ぶ論理的な認証交換です。WS-41がRADIUS-1へ無線で直接送るわけではありません。サーバ証明書を正しく検証して初めて、Evil Twinの偽認証基盤を拒否できます。
3. 正常な処理を順に追う
WS-41がCorpNetのSSID、選択されたWPA3-Enterprise方式、BSSID、チャネルを認識する。SSID一致だけでは正規APと決めない。
AP-1が802.1XのauthenticatorとしてEAPをRADIUS-1へ中継する。端末はRADIUS-1の証明書のCAと名前を確認する。
EAP-TLSで端末証明書も検証され、RADIUS-1が許可VLAN・ポリシーをAPへ渡す。
接続後の暗号鍵が確立し、WS-41は割り当てられたVLANでIP設定を取得し、アプリ側の認証を別に受ける。
WPA3という表示だけでEAP-TLSが動いているとは限りません。PersonalのSAEとEnterpriseの802.1Xは別です。WPA2-EnterpriseでもEAP-TLSは利用できます。実際のAKM、EAP方式、サーバ証明書検証結果を確認します。
4. 設定値・ログの読み方
項目 | 値の意味と判断の限界 |
|---|---|
ssid/bssid/channel | SSIDとAP識別子・チャネル。BSSIDは偽装可能なので単独では信頼根拠にならない。 |
akm/cipher | PSK、SAE、802.1Xなどの鍵管理方式と暗号方式。移行モードでは実際に合意した方式を見る。 |
eap_method | EAP-TLSかパスワード系EAPか。リスクと調査対象が異なる。 |
radius_server/cert | 端末が検証した認証サーバ証明書の名前とCA。検証を無効化すると偽サーバを受け入れ得る。 |
vlan/result | 認証後の割当と通信結果。RADIUS acceptでもDHCP失敗やACL拒否があり得る。 |
以下の架空ログでは、AP-Xへ接続を試みたWS-41が偽RADIUS証明書を拒否し、その後AP-1へ正常接続します。
16:00:00 client=WS-41 ssid=CorpNet bssid=02:00:00:00:aa:66
eap=EAP-TLS radius_cert=untrusted action=reject
16:01:00 client=WS-41 ssid=CorpNet bssid=02:00:00:00:aa:01
akm=802.1X eap=EAP-TLS radius_cert=ok
16:01:01 radius=RADIUS-1 client=WS-41 result=accept
vlan=10 ap=AP-1最初の`reject`はWS-41が偽の認証基盤へ接続しなかったことを示しますが、AP-Xを誰が設置したかは分かりません。次のacceptもAPP-1への業務アクセス許可ではなく、無線接続認証の結果です。
5. 攻撃・障害時の差分
異常・攻撃条件 | 観測、成立条件、対策の位置 |
|---|---|
Evil Twin | 同じSSIDを広告し、端末を接続させる。EAPサーバ証明書の厳格な検証と管理端末の構成配布で防ぐ。 |
弱いPSK | 共有パスフレーズを推測される。長くランダムな値、SAE移行、共有範囲縮小を検討。 |
移行モード | WPA2とWPA3の両対応で、端末が旧方式を選ぶ可能性。実際のAKMとPMFを監視し移行期限を決める。 |
不正APの内部接続 | 社内LANに勝手なAPがつながる。SWの802.1Xやポート管理、WIDSによる発見と現物確認が必要。 |
証明書検証無効 | 正規CAや名前を確認しなければ偽RADIUSへ誘導。EAP-TLSの端末秘密鍵は漏れなくても接続先信頼が壊れる。 |
PMFは一部の管理フレームへの偽装・切断攻撃を抑えますが、電波妨害や未認証の広告を全て防ぎません。Evil Twinを「SSIDが同じだから接続された」と断定せず、端末の証明書検証と接続ログを確認します。
6. 切り分けに必要な証拠
WS-41の接続先BSSID、AKM、EAP方式、RADIUS証明書の検証結果を保全する。
AP-1とRADIUS-1の認証時刻、端末証明書、割当VLANを照合する。
WIDSのAP-X観測だけでなく、社内有線ポートへ接続されているか現物・スイッチログで確認する。
誤接続した端末のDNS、HTTP、認証情報入力、業務アプリへの接続を調べる。
WIDSが同名SSIDを見つけても不正APとは限らず、近隣組織のAPかもしれません。RADIUS acceptは無線認証の成功であり、利用者本人がAPP-1へログインしたことではありません。
6.1 判断を誤りやすい境界と詳しい確認
確認点 | 具体的な判断 |
|---|---|
SSIDとBSSID | SSIDはネットワーク名で身元証明ではない。BSSIDは通常APの無線インターフェース識別子だが、偽装や近隣APの存在もあり、単独では正規性を証明しない。 |
WPA2-Personal | 共有PSKを知る端末が接続する。弱いパスフレーズは取得されたハンドシェイクからオフライン推測され得る。退職者・委託先へ共有した鍵の更新が難しい。 |
WPA3-Personal | SAEはパスワードに基づく認証で、単純なPSKハンドシェイクのオフライン辞書攻撃への耐性を高める。弱いパスワードや端末側の不備を無視してよいわけではない。 |
Enterprise | 802.1X/EAPで端末・利用者と認証サーバを結ぶ。EAP-TLSなら端末証明書とサーバ証明書を検証し、RADIUSが認証結果やVLAN等の属性を返す。 |
Evil Twin | 偽APは同じSSIDを広告できる。Enterprise端末が偽RADIUSのサーバ証明書を検証しなければ、偽認証画面や危険なEAP方式へ誘導され得る。 |
PMF | Protected Management Framesは一部の管理フレームを保護する。電波妨害や未認証の広告を防ぐ機能ではない。端末が実際にPMFを使ったかを確認する。 |
接続後の分離 | 無線認証に成功しても、割当VLANとFW、APP-1側の認証・認可が別に必要。GuestNetから内部へ届かないことを実通信で確かめる。 |
EAP-TLSの証明書検証では、端末が信頼するCAだけでなく、接続するRADIUSサーバの名前、有効期限、用途、失効方針を確認します。『不明な証明書を承認して接続』を利用者に許すと、同名SSIDの偽APからの誘導に弱くなります。管理済み端末には正しいプロファイルを配布します。
不正AP調査では、WIDSのSSID/BSSID/電波強度を発見の手掛かりとし、有線スイッチのMAC・ポート情報と現物確認で設置場所を絞ります。同名SSIDを近隣企業が使う場合もあるため、検知だけで社内侵入を断定しません。端末が接続した場合は、DNSやWebの通信先、認証情報入力の有無を別に調べます。
WPA2/WPA3移行モードではSSIDがWPA3対応と表示されても、古い端末がWPA2で接続し得ます。APと端末の双方のAKMとPMFの合意値を確認します。移行期間を延ばすほど旧方式の残存範囲が広がるため、機器更新計画、旧PSKの廃止日、接続失敗時の問い合わせ手順を決めます。
7. 設定変更と例外運用
変更・例外 | 失敗しやすい点と確認 |
|---|---|
WPA3移行 | 古い端末の対応を調べ、移行モードの期間と旧PSKの廃止日を決める。実接続方式を監視。 |
証明書更新 | RADIUS-1の新証明書のCA・名前を端末へ配布してから切替。失敗時のロールバックを準備。 |
端末紛失 | 端末証明書・アカウントを失効し、無線セッションとアプリセッションも確認する。 |
ゲスト網 | GuestNetのVLANとFWで内部APP-1を拒否。SSID名だけを隔離とみなさない。 |
RADIUSサーバ証明書の検証を一時的に無効化して接続障害を隠すと、Evil Twinへの耐性を失います。原因のCA・名前・期限を直し、証明書検証を維持します。
8. 封じ込めと復旧条件
AP-XのBSSID、位置、電波情報、接続端末とスイッチポートを保全する。
社内接続の不正APなら有線ポートを隔離し、正規APと区別する。
誤接続端末の認証情報入力・セッション・通信先を調べ、必要な資格情報と証明書を失効する。
RADIUSサーバ証明書検証、WPA3/WPA2選択、PMF方針を端末で再確認する。
CorpNetへ正規接続でき、GuestNetから内部へ到達できず、不正APへ認証しないことを確認する。
AP-Xを撤去しても、既に盗まれた認証情報や業務セッションは残り得ます。無線接続とアプリ側の調査を分けます。
9. 科目B(午後)での解答手順
SSID、BSSID、AKM、EAP方式、RADIUS証明書、割当VLANを順番に読みます。PSK・SAE・802.1Xを混同せず、Evil Twinの成立条件と証拠を示します。
PersonalとEnterpriseの認証主体を分ける。
EAP-TLSのサーバ証明書検証を確認する。
無線接続成功と業務アプリ認証を分ける。
10. 短答演習
演習1:SSID
条件:同じCorpNetを広告するAP-X。 質問:正規APと断定できるか。
解答:できない。認証と管理情報を確認。 誤答の理由:SSIDを身元証明にしている。
演習2:SAE
条件:WPA3-Personalを使用。 質問:PSK型と同じオフライン推測か。
解答:SAEは耐性を高める。 誤答の理由:方式差を無視している。
演習3:EAP-TLS
条件:RADIUS証明書がuntrusted。 質問:接続を続けるか。
解答:拒否し設定を調べる。 誤答の理由:検証無効化で偽サーバを受け入れる。
演習4:移行モード
条件:SSIDはWPA3対応。 質問:全端末がWPA3か。
解答:実際のAKMを確認する。 誤答の理由:対応表示と合意方式を混同している。
演習5:RADIUS accept
条件:WS-41が認証成功。 質問:APP-1も許可か。
解答:別のアプリ認証・認可が必要。 誤答の理由:ネットワーク認証を業務認可と混同している。
演習6:不正AP
条件:WIDSが同名SSIDを検知。 質問:社内設置と断定できるか。
解答:できない。位置と有線接続を確認。 誤答の理由:近隣APの可能性を無視している。
11. 一次資料
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